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2006年04月15日

天使の歌声

天使の歌声/アート・ガーファンクル
天使の歌声/アート・ガーファンクル



サイモン&ガーファンクルが最後のアルバム明日に架ける橋を発表したのが1970年だから、それからこのアート・ガーファンクルの最初のソロアルバムが完成するまでに3年の月日がたっているんですね。一般的にはポール・サイモンがS&Gのクリエイティブな部分を支えていたと思われがちだけれども、このソロ一作目を聞くだけでアート自身がとてつもない才能の持ち主で、確立された自分の世界観を持っていたんだなあと納得してしまう。

邦題の『天使の歌声』は彼の透き通った歌声の代名詞でもあると同時に、原題のANGEL CLAREからくる感覚的なインスピレーションかもしれませんね。このエンジェル・クレアというのはイギリスの作家トマス・ハーディの『テス』(岩波文庫 上巻下巻下巻)に登場する、人間の弱さやエゴを体現するような危うく脆い人物で、その彼を愛する純粋無垢なテス・ダーバヴィルの美しく儚い恋の物語が、『テス』である。と、言うことは、その美しくも危うく儚い物語の背景を重ねたくてこの名前にしたのだろうか、というとアート本人は「ただ語感がすきなだけ」ということみたい(笑)。でもね、もし読んだことがあるなら、「エンジェル・クレア」と聞くだけである種の複雑な感情を呼び覚まされると思うので、絶対意識してたと思いますよ。

まあそれはともかく、中身を聴いてみましょうか。
アルバム通しての印象はコンテンポラリーな良質なフォークミュージック、なんでしょうが、どうもそれだけでは片付けられないような圧倒的な迫力を持っていますね。アーティの声が自信に満ち溢れて、美しくて、ヴォーカリストとしての実力をこれでもかと見せ付けているような。曲は大きく分けて二つあって、昔から歌い継がれてきたフォークソングと、コンテンポラリーなもの。おそらくアーティハ前者のみでアルバムを埋め尽くしたかったんだと簡単に想像できます(笑)が、いろいろあって新しい曲もとりあげたのでしょう。やっぱりセールスも重要ですから。

伝統的なフォーク・ソングで注目すべきはThe Everly BrothersのSongs Our Daddy Taught Usから2曲を取り上げていることです。これはもともとエヴァリーズが父アイク・エヴァリーから教えてもらったフォークソングを歌い継いだコンセプトアルバムですが、のちにアーティは同アルバムからWho's Gonna Shoe Your Pretty Little Feet?という曲をまた取り上げて、Songs From a Parent to a Child(親から子へ)という名前のアルバムに収録しているところが興味深いですね。
『天使の歌声』に収録された「悲しみのウィロー・ガーデン」と「バーバラ・アレン」はともにイギリスやアイルランドに古くから伝わるバラッドで、こうして考えると、題名の『エンジェル・クレア』といい、ルーツはイギリスにあるように思えてならないです。

悲しみのウィロー・ガーデンはアメリカ人カントリー歌手のチャーリー・モンローの名前がクレジットされていますが、実際には古いアイルランド民謡で、もともと"Rose Connally"というタイトルで知られていました。ある純粋無垢な少女が、結婚することや父親になることを嫌がって解決策として殺人を選んだ若者に殺されてしまうことを歌っています。ほら、エンジェル・クレアのワガママぶりとつながってしまうでしょ?

「バーバラ・アレン」は17世紀まで歴史をさかのぼれる曲で、今度は嫉妬と復讐心に燃える女性を描いています。この曲も愛する人を殺してしまうという陰のある曲です。当時の伝承では、愛と死が直結したイメージで描かれているのですね。その「死」のイメージの延長線上でいくと、ランディ・ニューマンの「老人」(セイル・アウェイに収録)という曲が取り上げられています。ニューマンのバージョンは本当に最後の死の床を連想させるような物寂しいアレンジですが、アーティはどういうわけかこれを美しく、浪々と歌い上げますが、それがかえって死のイメージとの対比で不気味にも冷たくも感じられますね。

実はアルバム全体にこういう「生と死」の雰囲気が漂っていて、そんななかでさらに無常の愛を歌ったのがジミー・ウェッブ作のAll I KNOWで、いつか生をあきらめて死を迎えること、それは恋に関しても同じことで、想いが変わらなくても儚く消えていく恋を歌い上げた絶品のバラードです。言うまでもなくアーティの代表曲のひとつですね。ちょっとこのアルバムに収録されたバージョンは若さゆえかテンポが速いのですが、近年のライブでのバージョンや、ジミー自身のカバー(TEN EASY PIECES)を聴くと、ほんとうに感動を覚える傑作です。

こんな強烈な世界観をぶつけておきながら、次回作Breakawayではがらっとまた違う世界観を表現するアート・ガーファンクル。この人もまた、天才です。







posted by yossie at 12:07 | 東京 🌁 | コメント(6) | トラックバック(1) | Simon&Garfunkel
この記事へのコメント
お久しぶりでした
ずっと更新されていなかったので・・・・・
でも生きていてよかったです・・・・笑
心配していましたよ
また色々な音楽の紹介よろしくお願いします
アートガーファンクルのデビューソロアルバム
当時の事を思い出しますとあのころサイモンの
(ひとりごと)が出ていてアートとポールどちらのアルバムが良いかというような論争がありました
ほとんどの人がポールのアルバムが良いという
ところでしたけれど・・・・・・
でも音楽評論家中村とうようさんはガーファンクルのアルバムのほうが素晴らしいと・・・
一曲一曲のバックグラウンド大きさと作り方に感心してしまったと・・・・・・・
その奥行きの深さが理解できない人には
ただの美しいアルバムだけで終わってしまったのがとても残念・・・・みたいなコメントでした
私は童話を音楽で綴ったようなアルバムのように
思います・・・・・
Posted by ひでゆき at 2006年04月15日 22:44
こんばんわ!
すみません、ご無沙汰しました!そろそろポール・サイモンの新作も出るし、またなんか書かなくちゃと思って(笑)

このアルバムはとーっても難しいアルバムだと思うんですよ、ちゃんと奥行きを感じるためには。

童話を音楽で綴った、かもしれませんね。童話の語り方によってもすごく作品の印象は変わるのでしょうね。



Posted by yossie at 2006年04月15日 23:42
この夏、予定されている関東での演奏オフで、久々にアートの曲を1曲やろうかな?と漠然と考えてます。いまのところ候補として

1.Old Man
2.I Only Have Eyes For You
3.In Cars
4.So Much In Love
5.Second Avenue
6.Crying In The Rain

あたりを考えてるんですが1と6が、いまのところ有力です。Yossieさんあたりがハモってくれるなら6にしようかなと思ってますが・・・・いかがですか?もちろん、yossieさんがアートで僕がJTを担当します(笑)

Yossieさんがもし参加されるなら、Yossieさんの出番の時に、僕がハモリとギターでサポートするという形でやってもいいです(僕は僕の出番との時に別にアートの曲をやろうかなと思ってます)

すいません、ただの僕の勝手な皮算用です(笑)
Posted by at 2006年06月01日 10:11
えっとお名前がありませんでしたが、ひろみつさんですよね?(笑)

6でもいいし、I Wonder Whyでもいいですよ!
やりましょー。
Posted by yossie at 2006年06月01日 13:11
すいません、名前忘れてました。そうです、僕です。

僕は自分のセットリストとして現在

*Wartime Prayer
*Father&Daughter
*Old Man
*Something So Right

から3曲やろうと思ってますので、それじゃ、馴染みのある曲ということでCrying In The Rainでいかがでしょう。Yossieさんが演奏の時、呼んでくだされば、モソモソ出て行きますので(笑)Yossieさんの演奏の1曲を僕がサポートするということでいかがでしょう?アイデアあれば、また仰ってくださいませ。

ところで、Up Til NowとAcross Americaとどっちのバージョンがいいですか?
Posted by ひろみつ at 2006年06月02日 12:29
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Posted by christian ルブタン at 2013年07月16日 11:09
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