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2006年05月05日

Songs From the Capeman その3

ザ・ケープマン/ポール・サイモン
ザ・ケープマン/ポール・サイモン

さて今日で最終回です。ポール自身のライナーノートによれば、「50年代のスタイルとラテンスタイルの二通りで曲を書くことで、プエルトリコとニューヨークの二つの文化と時代を行き来することを試してみたかった」とのこと。もちろんそれまでにブラジリアン・ドラムや西アフリカのギターを学んできたことが役に立っていると認めています。ニューヨークに住んだことがない人にはあんまり実感がわかないかもしれませんが、あの町ってかなりの割合の人が、プエルトリコや周辺のラテンアメリカの国から流れてきている人で、英語とスペイン語両方話せるというのが普通なんですよね。

アルバムの後半では、アメリカ社会の影の部分で苦しむさまざまな人々にスポットが当てられ、さらにサルバドールが正気を取り戻していくことによって、彼を取り巻く環境や人々の狂気が逆に浮き彫りにされていく過程を見事に描いています。

アルバム後半のスタートを飾るQualityは軽快なオールドロック。Qualityなんていう言葉をサビに持ってくるなんてポール・サイモンらしい。ここで歌われているのは、町のアイドル的存在の男性。この曲がミュージカルの中でどのようなシーンに使われているのかは分からないんだけど、想像するに、サルが無縁となってしまった華やかな世界を描き、サルの置かれた境遇との対比をしているんじゃないかと思います。

ところがこの事件に巻き込まれた家族の現実はどうかと言うと、救いようがないくらい悲しくやるせないCan I Forgive Him?にその様子が描かれます。恐ろしく暗いギターの弾き語りです。コード進行もあるのかないのか分からないような不安定さで曲が進行していきます。登場人物は3人。サルバドールの母親と2人の被害者の少年の母親たち。サルの母親、エスメラルダは『私の息子は、あなたたちが思うような野蛮な子じゃないんです、あの装束のせいで私が育てたあの子は隠れてしまっているのです。どうか目をそむけないで聞いてください。』と必死に訴えますが、被害者の母親たちは絶望のあまりそんな声は耳に入りません。『ラテン移民はどうしてこの国にやってきて暴力を続けるの?この恐怖とともに暮らさなくてはいけないの?』『私の信じる宗教ではたとえ殺人者でもその者のために祈れと言うけど、私には許すなんてできない。』と口々に苦しみを吐露し、さらには『まるで爆弾が落ちて爆風が次から次へと襲ってきているようだわ!』『これは何かの間違いよ!』と心からの叫び…。

そんな被害者の母親の叫びが余韻として残る中、サルバドールの母エスメラルダはSunday Afternoonの中で自らの生い立ちを語ります。二回の結婚の失敗、夫による家庭内暴力、偽善、そんなことをニューヨークの高層ビルを見上げながら思い出していきます。一方でサルは自らの幼さを恥じ、大人へと成長していきます。それがTime is An Ocean。若い日のサルと大人になったサルバドール、そのふたりの声が重なる力強いラテンナンバーです。

いったいサルバドールは何を反省し、何を悔いたのでしょうか?彼は実行犯ではなく、ただギャング団の中で新入りで若かったため、掟として罪をかぶっただけだとも証言していましたが、そのギャング団に入って暴力を肯定したことを恥じたのでしょうか?この服務中に彼は文盲を克服して教育を受け、模範的な囚人となって行きます。Killer Wants To Go to CollegeVirgilに歌われるように、白人の執拗な嫌がらせに耐えて、自らの遅すぎた勉強を全うしていこうとするです。

ところが、刑務所の看守たちは面白くなかった。Storytellersでポールは語ります。「彼らはこう言ったんです。おい、うちは自分の子を大学に送る金なんて都合できないんだ。なのにお前は殺人者だから、国が補助してくれるんだってな。だがいいか、単位なんて取れるもんか。お前は一生この刑務所から出さないぞってね。」

サルバドール・アグロンは20年の刑期を終え、1979年に釈放された。二度と彼が暴力を振るうことはなかった。彼がアメリカを横断するバスに乗る様子を描いたTrailway Busで描写されるのはアメリカの姿そのものだ。ワシントン、リトルロック、ダラス、トゥーソンと旅するバスの中で、政治の世界、ケネディ暗殺、故郷、そして警備員…。サルがその得意な人生の中で学んできた様々なものの象徴がここに立ち並んでいるよう。彼は自由の身になった。だけど、全然自由じゃない。たえず強がり、たえずおびえていかなくてはいけない。この傷は一生背負わなくてはいけない。

だけど、こんな恐怖におびえているのはアメリカで彼だけなのだろうか?

Storytellersで最後に歌われたのはSlip Slidin' Awayだったけど、Trailway Busの後にこれを聞くと、ほんとうに神妙な気持ちになりますね。人生のゴールに近づいているようで、本当はどんどん遠ざかっている。







posted by yossie at 02:20 | 東京 ☀ | コメント(2) | トラックバック(0) | Simon&Garfunkel
この記事へのコメント
うわ!気づいたらこちらの方が更新されている!!
しかも新曲まで(>_<)

自分も就職&引越しでしばらくネットから離れていたのですが、また時折り覗かせていただきますm(_ _)m
Some Hearts and Harmoniesの更新も、気長に楽しみにしております(;^_^A

ケープマン、一人で部屋で聴くのが何だか怖くて(笑)、それほど聞き込んでないんですが、yossieさんの文章読んで、なおさら怖さが増しました(笑)。
僕はきっと、深刻なあまり歌は好きではないのでしょう。

でも、聴き直してみよーとも思いました。
Posted by ベンジャミン at 2006年05月07日 15:55
ベンジャミンさんこんにちわー!
就職オメデトウございます!

そ、そうか、怖いですか。怖くするつもりで書いたんではないですが、The Vanpiresとか確かに怖いですよね(笑)まあブロードウェイミュージカルとして成功するにはテーマが重過ぎるし難解かなと思いますね。
Posted by yossie at 2006年05月07日 18:52
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