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2006年06月01日

Surprise その1

サプライズサプライズ
ポール・サイモン


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ポール・サイモンの新作は、ブライアン・イーノとのコラボレーションによるとんでもない傑作。大部分のプロデュースはポールが行い、音の感覚的な空間作りをイーノが行っているような印象です。ポールが著名な音楽ライター、ビル・フラナガンとのインタビューで答えたところによれば、「ブライアン・イーノの作品は昔から尊敬していて、最初に僕が自分の取り掛かっていたものを彼に見せたんだ。そしたら彼は彼の音の作品を並べて見せてくれて、それらをうまいこと僕の音楽の上に乗っけてくれた。その瞬間に、この二つの要素が結びつくことが出来るんだって感じたよ。イーノの音と、僕のやってた音、ギターとリズムがね。彼のインスピレーションがなければ決してありえなかっただろうカタチで出来上がっていったんだ」と、語っています。実際イーノが施した音の装飾はポールの作品をこれまでになく芸術的に、妖しく、鋭角的に仕上げています。

ただし、決して分かりやすいアルバムではないと思います。とくに日本人のファンにとっては。なんでかっていうと、ポールの生み出す英語の語感のあやつり方が年々重要になってきていて、英語にこめられた感情や、そのセンテンスの通常会話での鷹揚と歌われ方の差だとか単語の発音される長さだとかが、複雑なリズムの中でもっともキャッチーな要素として作品を彩っているからなんです。わかりやすいメロディー、ではなくて。なんだか難しいですね、この言い方。ちょっとゆっくり色々説明を試みてみましょう。

英語の語感のあやつり方、と言いましたが、この辺がたぶんポール・サイモンというアーティストのポピュラリティが日本でイマイチな理由のひとつなのでは、とも思います。ひずんだ重々しいエレキギターで幕を開けるスケールの大きいオープニングチューンのHow Can You Live in the Northeast?でいきなりそれが如実に現れますね。最初の歌詞ですが、

We heard the fireworks
Rushed out to watch the sky
Happy-go-lucky
Forth of July

とあります。skyとJulyで韻を踏んでいるわけですが、fireworksとluckyは全然関連性がありません。だからここでluckyという単語を持ってくる必然性は全くないんですが、あえてskyとJulyの音感に近いluckyという単語を持ってくることによって逆にfireworksと言う言葉が鮮明に浮き出て、さらにこの単語だけ音程があがりながら歌われているので、さらに強調されてくるわけです。そしてこれに結びつけるイメージとして、大空・気楽・希望(開国記念日)といった明るいプラスのイメージをならべて曲は幕を開けています。

で、この4行が終わったとたんに、つまり一回短い韻文があったあとに、いきなりリフレイン部がくるのです。こんな曲、ボブ・ディランだったら絶対に書かないですね(笑)。もっと念入りに韻を踏んだ文章を重ねたあとにサビに行くでしょう。でもこの曲は違う。そこがまたポールの演出。のんきな情景描写をしたあとにいきなり究極の問いかけをするわけです。みんな自分の今の境遇を当たり前のように享受しているけれど、なぜそれが絶対的なものかどうか、疑問を持たないのか?って。なぜそれで他人を批判するんだ?真実はなんなのか、問いただしてみないのかって。そうポールが言ってるように思えます。

そしてfireworksという言葉がもう一度でてきます。

We watched the fireworks
'til they were fireflies
Followed a path of stars
over the endless skies

今度は花火のあとに続く言葉はどちらかと言うとデクレッシェンド的なイメージ、拡散するイメージです。大きな花火は、蛍のような小さな光になり、無数の星の瞬きを追いもとめ、限りない空のなかに漂う。ここでもfirefiesとskiesが韻を踏んでいて、そこに[z]の発音で終わるstarsを持ってきて、fireworksを浮き立たせ、「花火」を再定義しています。ここでは、希望と明るさに満ちていた花火が、逆に細かく消えていくものになっています。

ちょっと思い出すのは、You're the Oneのなかでも、「見方を変えれば」というテーマを提示していたこと。絶対的な真理などないことを、最近のポールは繰り返し説いています。

エンディングにきていきなり分厚い音や激しいリズムになって、歌詞も冒頭の「独立記念日」のくだりに呼応するように、アメリカという国の成り立ちに触れます。

Only three generations off the boat
I have harvested and I've planted
I am wearing my father's old coat

メイフラワー号以来、いろいろな移民がアメリカに押し寄せ、この曲の主人公も先祖が船で渡ってきてから3世代目でしかない。けど、ピルグリム・ファーザーズがそうであったように、アメリカに根を下ろして開拓をしてきた。そして巡礼始祖の思想は今も受け継がれている。アメリカって理想を抱くことによって成り立ってきた国ですから、それを忘れておいて、ばらばらに北東部も南部も宗教の別もないだろう、というメッセージでしょうか。「どこにいったのジョー・ディマジオ?」と一緒ですね。

とにかく、こういう言葉をたくさんならべるなかで、ストーリーが言葉そのものの意味じゃなくて言葉のイメージによって見事に進行していってしまう、しかもそのイメージをうまいこととらえたバッキングのサウンドとあいまって、感覚的にすごくキャッチーな曲になっているんですが、そのどちらか片方に対する理解が欠けてしまうと、ポールの音楽ってとっても難しいものになってしまうんだと思います。

それにしてもこの一曲目からイーノの仕業でしょう、いろんな音が聞こえます。ギターもただディストーションかけて歪ませてるだけでなはなくて、テープを逆回転させてるような音があったり、生ドラムにプログラミングのドラムが重ねられてたり、すごく成分解析が楽しい。でもぜんぜんお互いの要素がジャマしあってないあたりはさすがブライアン・イーノ。

はあ。この調子だとすごく長い連載になりそう(笑)。とにかく語りつくすことが出来ないぐらい魅力に溢れた作品ですね。

つづく。






posted by yossie at 00:00 | 東京 🌁 | コメント(2) | トラックバック(0) | Simon&Garfunkel
この記事へのコメント
イギリスのガーディアン誌にイーノのインタビューが掲載されていてポールと、どんな作業をしたのかを述べています。イーノは「ポールにはエゴがまったくなく、押し付けがましいところもなかった。これには本当に驚いた」コメントしています。ここです。

http://arts.guardian.co.uk/features/story/0,,1777824,00.html

傑作だと思いますよ、このアルバム。一見、ポールサイモンらしくないようで、丁寧に聞くと実にポールサイモンらしいアルバムだと思いました。グレイスランドなどで、土着のリズム、サウンドとアメリカンポップの融合を追及してYou Are The Oneで、その昇華した成果を出したポールが今度はイーノとの出会いによって、アコースティックなサウンドとエレクトロニクス、さらに言うと、アナログとデジタルの融合のようなことを目指したのかなと思いました。そして、そこへエスニックなリズムもソッと織り込むというのかな・・・。

以前、あるインタビューでポールは「メロディはいずれこの世から無くなるんじゃないかと思う」とコメントしていますが、そのコメントを実行した作品だとも思います。メロディを感じさせないメロディと言うのでしょうか、勿論従来のポールの片鱗を感じさせるメロディアスな曲もあるんですが、半数は一見キーもテンポも無視したような、でも実に計算されていて、ちゃんとしたポップスになっているような印象があります。

イーノの紡ぎだすアヴァンギャルドな電子音が用意したキャンパスの上をポールの声とメロディが自由に漂っていて、独特の「浮遊感」を感じました。母親の羊水の中で誕生を待つ赤ん坊のような気持ちに聞き手を誘うような雰囲気もあるように思います。「2001年宇宙の旅」のラストで宇宙から地球を見つめるスターチャイルドみたいに、いま地球を覆っている混乱、個人的な幸福やドラマが11の歌になっていて、黙示録みたいなアルバムなのかなと思いました。

yossieさんの指摘のように、ファンの間で評価は分かれると思います。違和感を感じる人も多いんじゃないかな。こんなのポールじゃないよって人もいるだろうし、離れていく人もいるかも。
Posted by ひろみつ at 2006年06月01日 09:52
「メロディはいずれこの世から無くなるんじゃないかと思う」って、確かにどっかで目にしたことがあるかも。でもそれを地で行くような作品ですよね。

ひろみつさんの紹介していただいたインタビューを読むと、イーノの側からすると最初からコラボレーションはうまく行っていたわけではなさそうですね。イーの自身もポールのグレイスランドでの行動に疑問を持っていたようだし。でも最終的には、彼がうまいこと、ポールの新境地を引き出してくれたんだと思います。
Posted by yossie at 2006年06月02日 00:05
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