Song Watermark > Simon&Garfunkel > Surprise その7

2006年06月11日

Surprise その7

サプライズサプライズ
ポール・サイモン


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いやあ重いですね、Wartime Prayer(笑)。ポールのこういうシリアスな面をものすごく久しぶりに見るような気がします。現代社会の問題点をここまでつきつめて哲学者のように語る彼の姿は、頼もしくもあり、一方で事態の深刻さを再認識する想いでもあります。

この次に来るBeautifulという曲は、曲調ががらっと変わってとっても斬新な英語の語り口調に加えて、深刻なテーマを扱っていながら決して暗くなることなく、愛と希望を描いてくれるとっても良い曲だと思います。


美しいギターと細かく楽しげなリズムのイントロに続いて、いきなり雪だるまが出てくる(笑)

Snowman sittin' in the sun does't have time to waste
He had a little bit much fun, now his head's erased
日向におかれた雪だるまはもう時間を無駄にできない
ちょっと楽しい時間を過ごしすぎて、あたまが溶けてきた


この曲は時制に注意して読んでいきましょうね。冒頭の文章は現在形。つまり日常のことです。いつ、と限定する出来事ではなくて、日常のある1シーンとしての描写です。その家の中には3人の人が住んでいて、二人がお洗濯をしていて、一人は子供部屋にいる、と語られます。

そして唐突ですが、

We brought a brand new baby back from Bangladesh
thought we'd name her Emily.
She's Beautiful.

おそらくこの一人の子供がこの家に来た背景なのでしょう。過去形だから。この過去があって、上記の現在の風景があるという組み立て方です。バングラデシュはご存知の通りガンジス川の巨大なデルタのもと、モンスーンの気象影響による災害にたびたび見舞われる国で、しかももともと東西パキスタンの紛争にさらされて多くの難民を出してきました。1971年にジョージ・ハリスンの主催したコンサート・フォー・バングラデシュは、チャリティーコンサートの先駆けとして有名ですが、いつの時代も貧困にあえぐ国となってしまっています。

しかし、そこから子供を連れてきてエミリーという英名をつけている。彼女は美しい。貧困や紛争とは関係なく、そこに生まれる命の純粋な美しさを讃えているようです。

Yes sir,

これ自体はあんまり意味がないけど、誰かに語りかけているのだということが分かります。

head's erased, brain's a bowl of jelly
Hasn't hurt his sense of taste
judging from his belly

おや?"head's"に冠詞がついてません。単にある雪だるまの頭のことを言ってるのであれば、"his head's"とか"the head's"となるのが普通です。となると、ここで雪だるまの役割が変わってきていて、なにか概念的な何かの言い換えになってるのだと気づきます。なんの?

頭は消え、脳はどろどろの塊
だけどそのおなかの肥え具合から見ると
味覚を失うことはないようだ


これは取りようですが、子供に対する大人の揶揄かもしれませんね。色々な経験をしてきて大人になると、考えが腐ってくる。だけど欲深さだけは忘れることはない。と、いうことの喩え。でなければ、sense of tasteという雪だるまの情景描写からは不必要な言葉が出てくる理由がありません。

もうひとり子供が増えます。今度は中国から。mainland Chinaというのは、台湾の中華民国政府に対比したときの大陸の中華人民共和国を指す言い方です。ここであえて中国といわずに、台湾の存在を逆にほのめかすような言い方をしているのは気に留めておいてもいいかもしれませんね。この子も女の子。美しい。家族は4人になり、二人の子供は台所の床に座っているようです。

Go-kart sittin' in the shade
you don't need a ticket to ride

これも日常的な描写ですね。平和な風景。go-kartは乳母車ですね。ベビーカー。で、家族はおそらく滑り台のあるプールに来ている。トム・クルーズの主演したマイノリティ・リポートを思い出します。親が子供をプールに連れてくる。結果何がおきたか?それを思い出せば

Keep an eye on them children in the pool

という忠告は正しい。平和な日常に見えて、何が起こるかわかんない世の中。子供が犯罪や事故の被害にあわないように、たえず目をかけて大切にしないといけない、気の休まらない世の中。

最後に登場する男の子はコソボ。ユーゴスラビアでの民族紛争の舞台です。中東問題と同じように、ここも地元のアルバニア人とセルビア人の扮装にアメリカを始めとした大国、NATO軍が介入して世界論争となったところです。世界にこれだけ戦争や災害・紛争がおきているわけですね。

その中で、赤ん坊の美しさは変わらない。人間はどの時点で純粋さを失うのでしょう。そしてどの時点で雪だるまとなって、解けていくのでしょう。最後まで欲を抱えながら。








posted by yossie at 00:40 | 東京 ☁ | コメント(8) | トラックバック(1) | Simon&Garfunkel
この記事へのコメント
Surpriseは、時代の、世界の痛みを感じさせる曲が多い中で、「すべてはラブソング」「Father&Daughter」そして、この曲は、ホッとする暖かさ、優しさがありますね。

ポールの弾くアコギのリフが美しいけど、でもこのアルバムに入ってる曲は、美しい曲ですら「バラード」とも言えない、不思議な浮遊感を持ってますね。

この歌にも、キャンディスタンドに並ぶ子供達、プールで泳ぐ子供達から目を離してはいけないよとヤンワリと諭してる箇所や、中国やバングラディッシュから赤ん坊を連れて帰ってきたという箇所などから、油断のならない世界だと言うことをにおわすあたり、さすがポールだと思います。特に中国云々のくだりは、どこか台湾への中国の理不尽な仕打ちを匂わすような印象まで受けます。

でも、全体的な曲のトーンは穏やかで、平和で、どこかユーモラスですらあるように思います。its, summertime,summertimeというところなんか、子供がハシャイデルような印象を受けます。ポールは、ミクロな世界を描きながら、その向こうに国、社会、世界というマクロな世界を感じさせる描き方が上手いなと思います。

この曲、大好きです。

Posted by ひろみつ at 2006年06月11日 01:14
>特に中国云々のくだりは、どこか台湾への中国の理不尽な仕打ちを匂わすような印象まで受けます。

その辺の解釈、迷うところなんですよね。確かにそうなのかもしれない。でないと、なぜここで台湾を匂わせているのかがわかんないんです。あと、わざわざ「シナ海を航海した」と言ってるところも。

>ポールは、ミクロな世界を描きながら、その向こうに国、社会、世界というマクロな世界を感じさせる描き方が上手いなと思います。

そのご指摘、ドンピシャですね。その通りだと思います。直接問題を指摘するのではなくて、登場人物や心の動きを丁寧に描いていますね。
Posted by yossie at 2006年06月11日 14:34
yossieさんは小津安二郎という映画監督をご存知でしょうか?黒澤、溝口とともに海外で、「映画の聖域」とまで言われてる巨匠です。彼は、いわゆる社会告発のような映画は一切作らず、毎回「家族」をテーマに、日本人の何気ない日常を淡々と描いた人で、現役当時は若い映画ファンや評論家から、小津みたいな保守的な映画は駄目だと罵倒され、骨董品みたいな扱いを受けてました。

その彼が、こんなことを言ったことがあります。「映画が、あまりにも社会的なテーマばかり取り上げるのは映画のありかたとしてどうかな・・・。人間をちゃんと描けば、結果それは社会を描くことになるんだけどね」

ポールがミクロな世界を描きながら、その背後に社会、世界、国と、とてもマクロな世界を感じさせるのが上手いと思ったのは、この小津監督の言葉を思い出したからです。

Posted by ひろみつ at 2006年06月11日 15:41
もう折返しですね。Surprise註解事業。
まだ飛ばす曲がいくつかある(笑)私からすると、全部やるのって大変だろうなと。
あと5曲、がんばってくださいー。

ちなみに2・4・9かな、飛ばしていたのは(笑)
yossieさんの註解のおかげで飛ばさなくなってきました。

Beautifulは飛ばさない曲。イメージがBorn At The Right Timeとかぶります。
Posted by こうもり at 2006年06月11日 21:07
連続書き込み・・・。

バングラデシュも、コソボも紛争とか貧困の問題のある地域。

でも中国の子だけ、貧困も紛争もないし、アメリカ人よりははるかに豊かな食生活なのに、なぜもらわれるのかはっきりしませんよね。中国に関しては、微妙にバイアスのかかった認識なのかもね。
Posted by こうもり at 2006年06月11日 21:25
>Beautifulは飛ばさない曲。イメージがBorn At The Right Timeとかぶります。

それを書くのを忘れてました。Born at the Right Timeの『茂みの中で男の子が見つかった。彼の目はどこまでも澄んでいた』っていうやつですよね。東欧諸国が開放されたことを喜んでいる歌でしたが、それから時がたって、再び"Right time"と言えるのかはわからない状況だけれど、子供の美しさは変わらないということでしょう。

>中国に関しては、微妙にバイアスのかかった認識なのかもね。

ですね。アメリカ人から見る中国ってそうなのかも。

Posted by yossie at 2006年06月11日 22:23
時制...、苦手なもののひとつだ(笑)
理屈は日本語と同じなんですけれどね、とっさに出てこないのはやはり外国語ゆえ、頭で考えちゃいます。

その"頭"がドロドロに融けた雪だるまは愚かな大人、もしくは大人の愚かしい行為の象徴。

バングラディシュと中国から女の子を連れてくるもっと前、そう七年くらい前にコソヴォから連れてきた男の子は、夏の遊園地で目を離した隙にどうにかなってしまったのでしょうか?
でもこの家には今は4人しかいないのだから、やはり何か起きたのでしょうね。
日向の雪だるまは融けて、日陰のGo-kartは消えた。。。

中国−位置関係からいえばyossieさんのいうように台湾が正しいのでしょう。
けれどわたしが真っ先に浮かべたのはチベット。
中国は(純潔)のチベット人をこの地球上から絶滅しようとしか思えないような政策。もっと国際社会で指弾されてしかるべきと思います。
Posted by うらうめ at 2006年06月13日 02:57
チベットというのは説得力ありますね。中国と言えば、台湾とこの国は無視できない関係がありますね。

ポールも近年、チベットへ行って、ダライラマにインタビューするドキュメントに参加してるし、チベットを示唆してる可能性は充分あると思います。

この曲は、子供が重要な意味を持っていますから、チベットでの教育事情を考えると、この曲の持ってる重みのようなものが伝わってくるような気がします。

学校の役割を果たしていた僧院を文革で破壊され、替わりに2500の「人民学校」をチベット自治区に建設しましたが、先生はチベット語の初歩すら、まともに教えられず、教育の中身は「漢化」教育一本で、小学校とはとても呼べない惨憺たる代物です。

良い学校には、当然中国人優先です。チベットの子供の5割は就学できないらしいですね。そして、チベット人よりも、ズカズカ乗り込んできた中国人(漢民族)の方が人口が多いと言う現実・・・

こういう現実をポールが知ったことから生まれた曲なのかもしれませんね。この箇所だけ「シナ海を渡って」と、わざわざ言ってるのは、そういう含みがあるのでしょうか?

台湾説も捨てがたいですね、でも・・・・。
これまでアメリカは台中関係には仲裁的な立場を取らなかったけど、ブッシュ政権になって、パウエルが仲裁的立場を取ると明言し、また現状維持路線から、台中の「平和的統一」路線に方針を変え、台湾の独立にハッキリと反対の表明を出しました。

その一方で、ブッシュは台湾の防衛に協力するという殺し文句で、台湾に大規模な武器等の売却を行っています。これによって中国にアメリカの言うことを聞かせようと言う腹だと思います。

そんなことを考えると、僕らの想像以上に、この曲は、深刻な政治的背景を隠した作品かもしれませんね。Yossieさん、うらうめさんの明晰なコメントを拝見してて、この曲はチベット、台湾、バングラディッシュ、コソボなどアメリカや中国の政治的思惑の犠牲となってる、何の罪も無い子供達への贖罪の歌ではないかと思うようになりました。

「確かに頭の部分が溶けている/頭脳はドロドロの塊になっている/でもその太鼓腹から判断するにスノーマンらしい味わいは薄れていない」という歌詞は、無力な子供達に犠牲を強いるブッシュをはじめとした多くの世界の指導者的な立場にいる政治家への痛烈な批判、皮肉であると同時に、それでも彼らへの一抹の人間性を期待したいというギリギリの希望を暗示しているように思います。
Posted by ひろみつ at 2006年06月13日 14:26
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