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2006年06月12日

Surprise その8

サプライズサプライズ
ポール・サイモン


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ちょっと一息、とか言って、いきなりここでローリング・ストーンズのアルバムをとりあげたら、クレームが来るんだろうな(笑)。いやいや一気に行きますよ。つぎはI Don't Believeです。Wartime Prayersやその他のいくつかの曲もそうだし、この曲もそうなんですが、ドラマーが二人。ポール・サイモンとブライアン・イーノという二人が表のコラボレーションなら、裏のコラボレーションはドラムのスティーヴ・ガッドとロビン・ディマジオの二人ですね。この二人がやることで独特のリズムトラックが出来上がっているといっていいでしょう。時に優しく、時に荒々しいこの曲は、アルバムの中でももっとも哲学的な歌かもしれません。

なんとなく、これだけ長くスティーヴ・ガッドのドラムを聴いていると、そこに新しい要素が加わると、このあたりがディマジオのドラムかなってわかりますね。オープニングの部分のドラムも特徴的。変な音がたくさんするのに、きれいなガットギターはすべてをまとめる力がある。

Acts of kindness, like breadcrumbs in a fairytale forest
lead us past dangers as light melts the darkness

ヘンゼルとグレーテルの世界からはじまります。

妖精の森にまいたパンくずをたどるように
私たちは様々な親切な行いに導かれて
危険からのがれているのです
光が闇を溶かすように


うんうん。いいことを言いますね。道徳のお時間のようです。ところがっ。

I don't believe

と言い放ってしまいます。分かりやすい展開ですね。このあと何故か地球が形成されたときのお話になってしまいます。『嵐の中で地球が生まれ、海が引いて山が作られた』とのこと。風景が妖精の森から一気に原始の地殻変動を繰り返す地球に変ってしまったわけです。曲調も一変してハードに。ここに登場する、

The universe loves a drama

というセリフの注釈に「2004年の大統領選挙後のEBによる所感」と書いてあります。この大統領選挙は疑惑に包まれています。イラク戦争を展開してきたブッシュがごくごくわずかの差で2期目当選を果たしたのですが、オハイオ州での投票操作によってブッシュが辛くも勝ったのではないかという声があります。このオハイオの票が逆転していれば、この大統領選に勝っていたのは、民主党のケリー候補だったとされています。ただ当選後のブッシュ大統領は迅速なメディア対策を行い、このことが報道される機会はほとんどなくなりました。そして次の歌詞が、

Ladies and Gentlemen, this is the show
紳士淑女の皆様、これがショーなのです

と、大胆な言葉。続いて株のブローカーから電話がかかってきて、「貴方は破産しました」と。この突然の展開はすごいですね。道徳的な模範を語っていたと思ったらそれを否定してすべてはショーだと言い放ち、すぐさま自分が突き落とされた実体験を語る。

でも周囲には変わらず平和な風景が流れ続ける。子供たちが笑っている。ところが、この愛に満ち溢れた風景さえ、永遠でないのだろうかと疑心暗鬼に陥っているようです。

I don't belive a heart can be filled to the brim
then vanish like mist as though life were a whim
信じたくない、心がいっぱいに満たされたあとに
人生が気まぐれだとばかりに霧のように消えてしまうなんて


信じないといいながら、ほとんど信じているのでしょう。なぜなら次の文章があせりに満ちているから。「人生そのものが霧の一部なのかも。それだけに過ぎないのかもしれないし、もともと存在もしないのかも。もうしかすると、もしかすると、もしかするとそれ以上の存在かも。」そして最後に、

Maybe's the exit I'm looking for
「かもしれない」が私の探している出口なんだ

ここで、Maybeという言葉についてはちゃんと理解しておきましょう。「たぶん〜かもしれない」と訳されることの多い言葉でが、probablyの「たぶん〜かもしれない」が確率的には70〜80%の推測であるのに対して、maybeはよくて50%、「そういうことかもしれないけど、ちがうかもしれない」というあくまで可能性のひとつでしかないことを示します。確証的なものは何もありません。

物事に対してひとつの解釈を定めずに答えを永遠に保留しておくことが、自分を救うすべであると。ここでもう一度ブローカーから電話がかかってきます。「破産したなんて、間違いでした。ウィルスの仕業か、証券会社のジョークか。お客様の信頼を損ねていなければ良いのですが」

この時点でこの人はなにが真実か分かっていないはずです。本来自分がそれで救われたと思わなくてはならないのに、ここではそのことに対してはなんのコメントもなしで、最後に謎かけのようなラインを残します。

I don't believe
we were born to be sheep in a flock
to pantomime prayers with the hands of a clock
私は信じない
みんな群れの羊に生まれて
時計の針と共に祈りを捧げる真似をしていたなんて


これは宗教的ななにかなのか、わかりません。が、いくつかキーポイントは、wereと過去形になっていること、weと「我々みんな」を指していること。人はみんな、過去に羊として生まれたことがあって、そこでお祈りの真似事をしていた。過去と今が無意識につながってる状態。永遠の魂。愛の永続性。

これらが信じられない。でも本当なの「かもしれない」。
そうやって人は信仰をもち、生きていくのでしょう。







posted by yossie at 00:00 | 東京 ☔ | コメント(7) | トラックバック(0) | Simon&Garfunkel
この記事へのコメント
ポールとブライアンの陰に、ガッドとディマジオあり、なるほどですね。このロビン・ディマジオって僕は初めて聞く名前です。どんな活躍をしてる人なんでしょうね?

それと、もう一人。エンジニアを担当してるチャド・ブレイクを無視してはいけませんね。ミチェル・フレーム&彼のコンビで、過去にロン・セクスミス、ランディ・ニューマン、ロス・ロボスなどを手がけた、いま売れっ子のエンジニアです。チャドの特徴は、風変わりな打楽器とリズムで、独特の空間を作り出すことだそうで、このポールの新作にも出てると思いませんか?

いよいよ折り返し地点を過ぎましたね。ご苦労様です。この曲の解説も、ほとほと感心して拝見しました。アルバム中、もっともエスニックな雰囲気が濃く、rhythm Of The Saintsの雰囲気を強く感じます。

タイトルのI Don,t Believeは、逆説で本当は信じたいのに信じられないということが言いたいのかな・・・・。「紳士淑女諸君、これはショーなのです」までの歌詞は、どこかヤケクソのジョークに聞こえます。

>「2004年の大統領選挙後のEBによる所感」と書いてあります。

これ、ズッと気になってました。ブッシュの当選は、キリスト教原理主義の莫大な票が勝因ではないかと言われましたが、迷える人々に心の平安を説く宗教までが疑惑と不信の元凶になっている。何を信じればいいのだろう。信じたいのに、それをすぐ皮肉に否定する自分がいて、そんな自分にも苛立っている、そんな印象を受けます。

最後の4行
「でも私は信じない
 私達は群の中の羊として生まれ
 時計の針とともに
 祈る仕草を見に付けていくことを」

は、キリスト教だけでなく、何をしてようと、決まった時間にメッカの方を向いてアラーに祈るイスラム教のことも指してるように思います。さらに言えば、あらゆる宗教、信仰そのものへの不信を言ってるような気がします。

Posted by ひろみつ at 2006年06月11日 22:45
羊は、キリスト教徒の象徴ですね(特にプロテスタントの − だから「牧師」さんです)
アメリカ(の根底にある常識)は、WASPが作ってきました。昨今ではプロテスタントの比率が低下してきているそうですが、なんと言ってもメイフラワー号に乗ってやってきたのは、旧世界(=古いしきたり)から新世界へ脱出してきた清教徒たちですから。(ある側面から云うと、ですよ)
そしてこの歌は、その新世界で人々が営々と築いてきたものが"幻"だったのではなかろうか....? という信じたくない現実を目の当たりにしてしまった悲痛な叫びではないか、と思ったりします(特に、最後の"羊"のくだりが)
−前段(地球の成立ち)を踏まえると"人類が"とも言いたいのでしょう。そしてその後の展開は最初にまた戻る。世の中で起きていることはみんなお伽噺みたいなものだと(アリスは出口を見つけられたけれど...、たぶん。。。)−

これ、HCYLTNEの最後の3センテンス(僅か3世代の人間が船から降立った わたしは人間の営みを黙々と続けてきた わたしは父から受継いだ古いしきたりを守っている)やWPの最後、戦火の中、子供をかき抱き朦朧とした意識の中でその子をあやし、そして(儚いor空しい)祈りを捧げている母親に通じるところがあると思いませんか?

このアルバム、実は「OLD FRIENDS」のように組曲になっているんじゃ。。。
Posted by うらうめ at 2006年06月12日 20:57
>羊は、キリスト教徒の象徴ですね(特にプロテスタントの − だから「牧師」さんです)

うらうめさん、ありがとう!それだそれだ。それでパズルが埋まった気がします!「迷える子羊」ってやつですね。なんで思い当たらなかったんだろう(汗)

>この歌は、その新世界で人々が営々と築いてきたものが"幻"だったのではなかろうか....? という信じたくない現実を目の当たりにしてしまった悲痛な叫びではないか、と思ったりします(特に、最後の"羊"のくだりが)

そうだと思います。愛や真理が永続しないものだと気づき始めているのだと思っていましたが、それだけに最後の「羊」がピンときてませんでした。すっきり。

楽しいですね、謎解き(笑)

>OLD FRIENDS

ブックエンド?
だとしたら、それよりもずっと完成された組曲ですよ、これ。読み解けばとくほど哲学的だし、宗教という枠を更に超えたものがあります。

Posted by yossie at 2006年06月12日 22:31
ひろみつさん、ロビン・ディマジオですが、このページを読むとえらいたくさんの人と競演してますよ。
http://www.theonering.net/ringers/robin_film.shtml

サミー・デイビスJr.やレイ・チャールズから、デビッド・ボウイ、クインシー・ジョーンズ、ジャクソン・ブラウン、マライア・キャリー、ポール・マッカートニー、ジョニー・キャッシュ…その他大勢。

天才肌なんでしょうね。ジャンルが幅広そう。

Posted by yossie at 2006年06月12日 22:41
>ブックエンド?
そ、そうです(大汗)

>すっきり。
よござんした^^

ところで最初の文章ですが、わたしはyossieさんとまったく逆の意味と思っていました。
先ほどは会社だったのでまさか歌詞カードを広げるワケにも行かず。。。帰りの電車の中でもう1度読み返してみました。

"melt"って、溶かすじゃなくて、溶けるでは?
なので私の解釈は、お伽の森のパンくずに導かれるように連れて行かれたのは光が闇に呑みこまれるような過去の危難(にまつわる記憶)。だから彼は慰められないし、火のそばにいてもちっとも暖かくない。

それから "acts of kindness" 素直にとると親切な行い ですが、"act" には演技という意味もありますよね。そして"s"は複数形の"s"ではなく三単現の"s"とすると主語が隠されていることになります。ではいったい誰が親切なふりを装って思い出したくない過去へ導いていったのか?この詩の中で主語抜きでもよい存在は「神」と推測されます。なぜ神がそんなことをするのか?ヤハウェは契約と戒律がお好きのようで、彼の意に背いたときには容赦なく罰を与え給う... そして人間は生まれたときから罪深い存在。

んでもって、最後に神は、まるで恵みの雨が降ったときのような歓喜の叫びとともに人々の魂を開放する。そして、"I don't believe" 以下の"羊"のくだり。
どうやら人間は、神様の掌の上でパントマイムをさせられているようですね^^
Posted by うらうめ at 2006年06月13日 01:05
自己レスです
やっぱり、"act"を動詞とみなすのはムリがありますね^^;;
Posted by うらうめ at 2006年06月13日 12:36
>帰りの電車の中でもう1度読み返してみました。

持ち歩いてるんですか^^

>"melt"って、溶かすじゃなくて、溶けるでは?


Acts of kindness, like breadcrumbs in a fairytale forest
lead us past dangers as light melts the darkness

他動詞「溶かす」と自動詞「溶ける」、両方あるんです。この前のasは接続詞なので続く文章は、「英語の5文型」のうちどれかを完成させなくてはなりません。とくに省略がないかぎり、lightが主語ですから、動詞がmeltです。そのあとに名詞の「darkness」が来ているのですが、名詞は「主語」か「目的語」(たまに「補語」)にしかならないので、ここでは目的語。直接目的語を取る動詞は他動詞(溶かす)です。で、第三文型の完成。

自動詞(溶ける)だとすると、第一文型か第二文型をとれますが、そのあとに名詞をおくことは出来ません。名詞の前に前置詞をおいて副詞的な目的語とすることはできますが、ここにはなにもないので。

ということを判断すると、ここは「溶かす」だと思うのです。

もちろん、歌詞の場合は文法を無視して完成で書く場合もありますが、この場合はだとするとdarknessのおき方があんまりきれいじゃないと思いました。

>やっぱり、"act"を動詞とみなすのはムリがありますね^^;;

そうですね、ここも文法的に見ていくと名詞としたほうが素直です。leadの主語は複数名詞でないといけないし、actsを動詞としてしまうとその主語は単数ということになりますので矛盾が生じます。

>どうやら人間は、神様の掌の上でパントマイムをさせられているようですね^^

パントマイムっていう言葉、重要な気がしますよね。確かに。本物じゃないんだけど、真似事をしてるってことですもんね。
Posted by yossie at 2006年06月14日 00:25
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